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書評:福井憲彦『近代ヨーロッパ史 世界を変えた19世紀』

今回、取り上げるのは福井憲彦著『近代ヨーロッパ史 世界を変えた19世紀』である。もともと放送大学用のテキストらしく、近代ヨーロッパの歴史が初学者にも分かりやすく書かれている。高校世界史で学ぶ知識を少し詳しくした程度で、教科書的な記述も目立つし、人によっては物足りないかもしれない。ただ、近代ヨーロッパ史の特徴をサクッと振り返るには都合の良い本だと思う。

 

 

副題には「19世紀」と書かれているが、この本の射程は16世紀の大航海時代までさかのぼる。約400年、多くの事件が続いたこの時代を、一つひとつ掘り下げていくのは容易かもしれないが、ではそれらを大局的に振り返ろうとすると案外言葉に詰まってしまう。その意味で、フランス史研究で有名な著者が250ページで振り返ってくれる講義は、手軽で魅力的である。

 

 

レコンキスタ後のポルトガルに始まった大航海時代は、スペイン、オランダ、イギリスと続き、現代的なグローバルな世界を形作いっていく。この時代、ヨーロッパ文明を世界に広げていきながら、大西洋革命、産業革命を経験し政治・経済両面で革新的な発展が見られた。もちろん、その一方でアジア・アフリカに対する暴力的支配や、ヨーロッパ内部での格差、そしてなによりもナショナリズム帝国主義へと変容していく結果起こった世界大戦など、歴史の負の部分も見逃すことはできない。著者はそのような「近代ヨーロッパの光と陰」をしっかりと捉えることを強調する。

 

 

それが強調されるのも、著者も言うように、近代ヨーロッパは長い人類史の中でも、中世・近世からの「革命的」変化を遂げ、その歴史的特徴(成果)が多くの点で現代に引き継がれているからである。それは社会制度の面だけでなく、個々人の価値観や自意識にまで深く根を下ろしている。どれほど過去に無自覚であっても、私たちが良くも悪くも歴史的存在であることは否定できない。私たちは、私たち自身を深く知るために歴史を学ばなければならないのだと思う。

近代ヨーロッパ史 (ちくま学芸文庫)

近代ヨーロッパ史 (ちくま学芸文庫)